人は高齢になるに従い、身体能力や判断能力が衰えてきます。それに伴い、今まで当たり前のようにできていたことが難しくなってきます。もし自分や身近な人が認知症になったら日々の生活はどうなるのか?!金銭管理は誰に任せればよいのか?成年後見制度は、そんな不安を解消するためにつくられた制度です。
成年後見には、法定後見と任意後見があります。
①認知症になった時に利用できるのが→法定後見
法定後見(法律による後見制度)
法定後見とは、認知症などによって、現に本人の判断能力が低下した場合に、親族等の請求により、家庭裁判所が成年後見等を選任する場合で、成年後見等が法定の権限に基づいて本人の財産管理や身上監護を行う制度です(民法7条~15条)。
【3つの類形】
法定後見には、成年後見、保佐、補助の3つの類形があります。
成年後見…本人の判断能力が全くない場合に家庭裁判所が後見人を選びます。
保 佐…本人の判断能力が著しく不十分な場合に、家庭裁判所が保佐人を選びます。
補 助…本人の判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所が補助人を選びます。
②認知症になる前に備えておくのが→任意後見
任意後見(契約による後見制度)
任意後見とは、判断能力のあるうちに、公正証書を作成して任意後見契約を結び、判断能力が低下したときの事務(財産管理や療養看護に関する事務)の内容と、後見人になるにとを定めておく制度です(任意後見契約に関する法律2条~4条)。
法定後見には、
判断能力の低下の程度により、成年後見、保佐、補助の3つの類型があります。
1.成年後見
成年後見とは、本人が一人で日常生活を送ることができなかったり、一人で財産管理ができないというように、本人の判断能力が全くない場合に利用されます。その場合、家庭裁判所が後見開始の審判をするとともに、本人(成年被後見人ともいいます。)を援助する人として成年後見人を選任します。
成年後見人は、本人の財産を管理するとともに、広汎は代理権及び取消権も持ちます。したがって、成年後見人は、本人に代わって様々な契約を結ぶなどして、本人が日常生活に困らないよう十分配慮していかなければなりません。
なお、後見が開始すると、本人は選挙権を失い、印鑑登録は抹消されます。医師、税理士等の資格や会社役員の地位も失います。保険外務員や警備員にもまれません。
2.保佐
保佐とは、本人が日常的な買い物程度は一人でできるが、金銭の貸借や不動産の売買等の重要な財産行為は一人ではできないというように、本人の判断能力が著しく不十分な場合に利用されます。その場合、家庭裁判所が保佐開始の審判をするとともに、本人(被保佐人といいます。)を援助する人として保佐人を選任します。保佐開始の審判を受けた本人は、一定の重要な行為(民法第13条第1項記載の行為)を、単独で行うことができなくなります。保佐人は、本人が一定の重要な行為を行う際に、その内容が本人の利益を害するものでないか注意しながら、本人がしようとすることに同意したり、(同意権)、本人が一人で既にしてしまった事を取消したりします(取消権)。
また、保佐人は、家庭裁判所で認められれば、特定の法律行為について、本人を代理して契約を結んだりすることもできます(代理権)。ただし、代理権を付け加えたい場合は、保佐開始の申立のほかに、別途、代理権を保佐人に与える申立が必要であり、そして、本人の同意も必要になります。つまり、本人の同意がない限り保佐人に代理権まで付与することはできないということです。
なお、保佐が開始すると、本人は、医師、税理士等の資格や会社役員の地位を失います。保険外務員や警務員にもなれません。
※重要な行為(民法第13条第1項記載の行為)とは、
①預貯金を払い戻すこと。
②金銭を貸し付けること。
③金銭を借りたり、保証人になること。
④不動産などの重要な財産の売買、担保権設定、賃貸借をすること。
⑤民事訴訟の原告となって訴訟行為をすること。
⑥贈与、和解、仲裁合意をすること。
⑦相続を承認、放棄したり、遺産分割をすること。
⑧贈与や遺贈を拒絶したり不利なそれらをうけること。
⑨新築、改築、増築や大修繕をすること。
⑩民法第602条の一定期間を超える賃貸借契約をすること。
をいいます。
3.補助
補助とは、本人が一人で重要な財産行為を適切に行えるか不安があり、本人の利益のためには誰かに代わってもらったほうがよいというように、本人の判断能力が不十分な場合に利用されます。その場合、家庭裁判所が、補助開始の審判をするとともに、本人(被補助人ともいいます。)を援助する人として補助人を選任します。
補助人は、本人が望む一定の事項についてのみ(同意権や取消権は13条1項記載の行為の一部に限ります。)保佐人と同様、同意や取消しや代理をし、本人を援助していきます。
補助開始の場合は、その申立と一緒に、必ず同意権や代理権を補助人に与える申立をしなければなりません。また、補助開始の審判をすることにも、補助人に同意権又は代理権を与えることにも、本人の同意が必要です。つまり、補助は、本人の同意がない限り利用できない制度となっています。
(自由国民社 「成年後見のことならこの1冊」から抜粋しております)